サムネイルの引用元:Maverick Protocol
はじめに
本記事では、EthereumやzkSync、BSCなどのマルチチェーンで展開する次世代の分散型取引所(DEX)、Maverick Protocolについて詳しく解説します。Maverick Protocolは、Dynamic Distribution AMM(DDAMM)という革新的なアプローチを導入し、従来のAMMが直面してきた課題に対する包括的なソリューションを提供しています。
特筆すべきは、このDDAMMを活用したLST(Liquid Staking Token)やLRT(Liquid Restaking Token)における流動性提供の効率性です。この新しい仕組みにより、Maverick Protocolは短期間で多くのユーザーを獲得することに成功しました。本記事の前編では、従来のAMMが抱えてきた課題を概観しながら、Maverick Protocolの概要について説明し、その後、具体的なメカニズムについて深く掘り下げていきます。
これまでのAMMの歴史とその課題
AMMの歴史は、2018年のBancorの導入に始まり、その後Uniswapの登場により大きな転換点を迎えました。特にUniswapは、V2、V3と進化を重ね、現在ではV4の展開が予定されており、DeFiエコシステムの中核的存在となっています。しかし、UniswapのV4による新たな革新が期待される一方で、従来のAMMモデル(V2およびV3)には依然として複数の重要な課題が存在しています。
まずはじめにEthereumチェーン上で展開されるアプリケーション共通の課題として、取引手数料(ガス代)の高騰という問題があります。特にネットワークが混雑する時期には、ガス代が著しく上昇し、小規模取引の実行が事実上不可能となるケースが頻発しています。この問題は、DeFiのマスアダプションにおける重大な障壁となっています。
引用元:Uniswap
また、従来のAMMにおける流動性提供の柔軟性の制限も大きな課題となっています。Uniswap V2では、流動性提供者は全価格帯に均一に資金を提供する必要があり、効率的な資本活用が困難でした。V3で導入された集中流動性の概念は、この問題に対する一つの解決策でしたが、新たな課題も浮き彫りになりました。多くの一般ユーザーにとって、集中流動性の適切な管理は複雑すぎる課題となっており、結果として上位のトークンペアを除き、依然としてV2が大きなTVLを維持している状況が続いています。
資本効率の低さも、従来のAMMの重要な課題の一つです。UniswapV3で導入された集中流動性は、理論上は効率改善をもたらすはずでしたが、実際には多くのユーザーが適切な流動性管理に苦心しています。広範な価格帯に流動性を提供した結果、大部分が遊休資産化してしまうケースや、逆に狭い価格帯に集中して提供したものの、価格変動により範囲外となり、全額が遊休資産化してしまうケースが頻発しています。
最も重要な課題として挙げられるのが、インパーマネントロス(現在ではLVR: Loss versus Rebalancingとして再定義)の問題です。これは、流動性提供者の資産価値が、同じトークンをただ保有している場合(Hodler)と比較して劣後するリスクを指します。近年、この問題はLVRとして数学的により厳密に定義され、その解決が急務となっています。多くの流動性提供者にとって、インパーマネントロスは流動性提供を躊躇させる重大な要因となっており、DEXの成長を妨げる大きな障壁となっています。
このような複合的な課題に対し、Maverick ProtocolはDDAMMという革新的なアプローチを導入しました。市場の動きに応じて動的に流動性を調整するこのシステムは、従来のAMMが抱える多くの問題を解決する可能性を秘めています。DDAMMの導入により、流動性提供者は市場の変動に柔軟に対応しながら、より効率的な資本運用を行うことが可能となりました。
Maverick Protocolの基本概念
引用元:Maverick Protocol
さて、従来のAMMの課題について理解を深めたところで、Maverick Protocolの概要について解説します。Maverick Protocolの核となる仕組みは、先ほどから述べてきたように動的に流動性を管理する仕組みです。従来のAMMが静的な流動性分布に依存していたのに対し、Maverickは市場価格の変動に応じて自動的に流動性を再配置する機能を実装しています。これにより、流動性提供者は市場の変化に即座に対応することが可能となり、より効率的な収益獲得の機会を得ることができます。
自動リバランス機能は、Maverick Protocolの革新的な特徴の一つです。従来のAMMでは、市場価格が変動して流動性の提供範囲から外れた場合、流動性提供者は手動でポジションを調整する必要がありました。この過程で発生するガスコストは、特に小規模な流動性提供者にとって大きな負担となっていました。一方Maverickの自動リバランス機能は、この問題を解決し、より効率的な資本運用を可能にしています。
技術的アーキテクチャの詳細分析
引用元:iq.wiki
さて今後さらに深くMaverick Protocolを理解するために、テクニカルな部分について解説を加えましょう。Maverick Protocolの技術的アーキテクチャの中心となるのが、「Bin」システムです。このシステムは、単なる価格帯の分割以上の意味を持つ革新的な概念です。各Binは、特定の価格範囲における独立した取引環境として機能し、効率的な流動性管理を可能にします。
Binシステムの具体的な仕組みを理解するために、実例を見てみましょう。例えば、ETH/USDC取引ペアにおいて、価格が1,800USDCから2,200USDCの範囲で変動すると予想される場合、流動性提供者は以下のような戦略を取ることができます:
1.現在の市場価格(例:2,000USDC)周辺に高い集中度の流動性を配置
2.予想される価格変動範囲内に適度な流動性を分散配置
3.極端な価格変動に備えて、範囲外にも少量の流動性を配置
このような柔軟な流動性配分により、取引の効率性が大幅に向上し、スリッページを最小限に抑えることが可能となります。
さらに、Binシステムはインパーマネントロスに対する新しいアプローチも提供しています。従来のAMMでは、資産価格の変動に伴う非永続的損失は避けられない問題でしたが、Maverickでは流動性の動的な再配置により、この影響を軽減することができます。