Ambient FinanceとJust In Time Liquidityの理解を深める 後編

サムネイルの引用元:Never Blog

はじめに

本記事では、UniswapやCurveなどに対抗する新しい分散型取引所のAmbient Financeについて解説します。前編では、AMMの基礎的な事項に触れた上で、シングルトンやノックアウト流動性といったAmbient Financeで特徴的な機能について詳しい解説を行いました。Ambient Financeは、現在Ethereumの他にScrollやCantoで稼働しているほか、Blastで大きな取引高、TVLを誇りますAmbient Financeを特徴づけるのは、Blast展開といったマーケティング戦略の妙より、AMMの仕組み的な点に高い優位性があります。

したがってAmbient Financeの機能を例にAMMにおける課題を認識するというのは極めて有効かもしれません。後編では、Just In time Liquidityを対策するminimum time-to-live、最低提供時間について、機能の提供における背景を含めて、詳しく解説します。そもそもJust In Time Liquidityは、あまり深く取り扱われる機会も少ないという点もあり、本記事ではより深い理解を目指します。

Just In Time Liquidityの概要とそれを防ぐ仕組み


引用元:Smart Contract Programmer

AMMには、いくつか重大な問題が存在します。1点目は、一般的なユーザーの特に大きな金額の注文を執行する際に生じるPrice Impactをその利益の源泉とするサンドウィッチアタック、2点目はBinanceやCoinbaseといった中央集権的な取引所とUniswapやCurveといった分散型取引所間の裁定機会により生じるLoss versus Rebalancingがあります。Loss versus Rebalancingは馴染み深くない言葉であるので、インパーマネントロスと同義と考えてください。実際時間軸が異なるだけで両者の指標として性質はほとんど変わりません。

さて本題のJust In time Liquidityは、先にあげたサンドウィッチアタックと問題の性質として非常に近い関係にあります。Just In time Liquidityの定義をまず述べておくと、大きなスワップ取引が生じた際に、特に集中流動性を採用するAMMの流動性が消費されるTickに瞬間的に流動性を供給することで、スワップから生じる取引手数料を得るという手法です。極小Tickに流動性を大量提供し、それを即座に引き出すことによって、他のLPより圧倒的に効率的にしかも多くの取引手数料を得ることができます。

他のLPより多くの手数料を獲得するできるというのは、一般的にAMMに流動性を提供するLPは、それなりに広いレンジ流動性を提供します。したがって1つのtickあたりに占める流動性の割合は小さくなります。一方Just in time流動性提供者は、あらかじめ流動性が消費されるであろうTickに局所的に流動性を提供するため、他のLPより少額でより多くの手数料を得ることができるというわけです。

冒頭Just In time Liqudityはサンドウィッチアタックに類似していると述べました。サンドウィッチアタックは、mempoolから一般ユーザーの大きな金額の注文を検知した取引者、より正確に述べればSearcherという主体がその大きな金額の前後に取引を挟み込むことによって実現します。一方、Just In time Liquidityでは、mempoolから一般ユーザーの大きな金額の注文を検知した取引者が注文の前後で流動性を提供、引き出しすることで、利益を得ます。以上の説明により両者の類似性が明確になったかと思います。

Just In time Liquidityの問題は、瞬間的に流動性提供する主体が、大きな利益を得る一方で、他のPassive流動性提供者の利益獲得を害する点にあります。そこでAmbient Financeでは、Just In time Liquidityを制限するため、流動性提供者にあらかじめ最低提供時間を設定することで、瞬間的な流動性提供を防止することに成功したのです。

Just In Time Liquidityの実現可能性


引用元:Uniswap

上記ではAmbient FinanceがJust In time Liquidityを制限する機能について、Just In time Liquidityの概要を踏まえながら解説しました。しかしながら、Just In Time Liquidityが、そもそもサンドウィッチアタックように喫緊の取り組むべき課題なのかについて、筆者は疑問に思います。まずサンドウィッチアタックと異なり、Just In time Liquidityはトレーダーの執行品質を害する取引ではありません。むしろ流動性が瞬間的にでも追加されることで、執行精度は向上するでしょう。

またそもそもJust In time Liquidityが、それほど頻繁に生じる問題なのかは議論の余地があります。まずJust In time Liquidityが生じるためには、サンドウィッチアタックよりもより多くの利益が見込まれる必要があります。Just In time Liquidityと聞くと、一般的なLPでも提供方法次第で可能なように思われますが、特にEthereumなどでは、一般ユーザーがJust In time Liquidityを行うことはほぼ不可能で、先ほど言及したSearcherと呼ばれる主体が執行します。Searcherは取引の順番を操作することで、サンドウィッチアタックかJust In time Liquidityを行いますが、一般にサンドウィッチアタックがJust In time Liquidityよりも利益が大きくなる傾向にあります。

なぜなら、サンドウィッチアタックは、Searcherだけがスリッページによる利益を享受できますが、Just In time Liquidityは、Tick内を流動性を提供している全ての主体に手数料が分配されるため、必ずしもその利益を独占できるわけではありません。そのほかにも、いくつかの要因より、今日までJust in time Liquidityは、それほど生じていないほか、サンドウィッチアタックがDEXにおける大きな問題として叫ばれていることからもこのことは理解できるかと思います。一方で、最近ではサンドウィッチアタックをさらに挟み込む形でJust In time Liquidityを行うことで利益を得ているという報告もあり、より複雑なJust in time Liquiditの可能性については今後も議論の必要があるでしょう。

後編ではAmbient Financeについて言及がやや少なくなりましたが、Just in time Liquidityの理解は、Ambient Finance、しいてはDEX全体の問題の理解にも繋がると考えており、有用であったと考えています。

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