流動性マネジメントとArrakis Finance 後編

サムネイルの引用元:Arrakis Finance

こんにちは!デフィー 伍拾伍号です。
昨日の前編に引き続き、本日は、Arrakis Financenの後編をお送りします。

Arrakis Finance V2

Arrakis Finance V2では、Arrakis Finance V1とは異なり、PrivateとPublic Vaultの2種類が展開されます。Public Vaultは、これまでと同じように誰でも流動性提供が可能となるVaultです。

一方のPrivate Vaultでは、ホワイトリストに登録されたアドレスのみがVaultに資金を預けることができます。したがってその対象としては、DAOやその他のプロジェクトが所有する流動性の管理ために利用されます。

2種類のVaultは、流動性提供の戦略を実行するマネージャーごとでさらに3つのタイプに分類されます。1つめはTrustless Vaultsです。これは、流動性提供の戦略がスマートコントラクトによって予めエンコードされています。したがって流動性提供者は、Curve V2のようなモデルと同様に、トラストレスかつ自動的な方法で流動性を管理することができます。

2つめはManaged Vaultsです。このVaultは、専門のマーケットメーカーによってその流動性が管理されています。したがって利用するユーザーは、流動性提供の戦略を実行するマーケットメーカーを信頼する必要があります。一方、上記の通り彼らはプロのマーケットメイカーであるので、一般のユーザーには、執行しづらい高度なマーケットメイク戦略を実行できます。

最後はSelf Managed Vaultsです。これは、Vaultのマネージャーでもある個々のエンティティのみが使用でき、対象者としては高い成績を誇るトレーダーや独自のマーケットメーカー業者に限定されます。

Arrakis Financeのドキュメントにも、信託、収益パフォーマンス、ユーザーの複雑性といった観点から、下記のような比較表が作成されています。自らの目的や選好に合わせて、最適なVaultを選択しましょう。

Arrakis
ここからは、Arrakis Finance V2 を介したマーケットメイク戦略について、その具体例を概観します。Vault内の流動性提供ポジションは、複数の流動性提供ポジションを複数の手数料レベルに割り当てることができ、流動性の移行なども柔軟に行われます。

以下は、インパーマネントロスが発生しづらいステーブルトークンペアと発生しやすいボラティリティのトークンのペアの2種類の流動性提供の戦略例を示したものです。前者は、USDC-USDTといったステーブルコイン同士のペアが当てはまるほか、stETH-WETHなど、一般になんらかのペッグトークンが該当します。後者はETH-USDCやWBTC-WETHなど両者の相関性が比較的低いペアが該当します。ではまずステーブルトークンペアにおけるArrakis Financeのマーケットメイキング戦略を確認してみましょう。

Arrakis
こちらはArrakis Financeのドキュメンテーションから引用しておりますが、縦軸を提供する流動性の量、横軸をペッグトークン同士の価格比としています。仮に画像の例をUSDC-USDTのステーブルコインペアとすると、流動性はその中央の1ドル付近に最も重点的に配置されます。

しかしながら、この付近には、多くの流動性提供者が存在しており、そもそも価格変動のリスクも小さいため手数料は0.01%に設定されています。一方、1ドルから離れれば、離れるほど流動性提供リスクが高まるため、Vaultは0.05%、0.3%という手数料レイヤーに流動性を提供します。

次にUSDC-ETHのようなお互いの相関性が低いペアについてその戦略を確認します。下記の図は、直感的にもわかりやすい例で、上記のトークンペアでは、流動性は現在価格から遠ざかるにつれて深くなるように配置されます。

Arrakis
補足ですが、Uniswap v3では、流動性提供の際に、流動性を提供する範囲は具体的に指定できても、どの範囲にどれくらいの流動性を配置するに関して指定できませんでした。もちろん、一般の流動性提供者も、複数のトランザクションを実行すれば上図のような形で流動性を提供できます。

しかしながら、特にガス代の高いEthereumチェーンなどでこの戦略を実行することは、コスト面を踏まえると非常に難しいはずです。しかしながらETH-USDCなどペアは、ペア同士の価格変動が大きい訳で、全ての価格に同様に流動性を配置するというのは、直感的にもあまり効率的な流動性提供の方法であると思えません。

したがって一般ユーザーもプロジェクトもUniswap V3に直接流動性を提供するのではなく、Arrakis Financeなどを利用するのは、理に適っているといえます。しかしながら最近ではIzumi FinanceやTrader Joe V2など価格ごとに柔軟に流動性を提供できるDEXも登場しており、必ずしも流動性マネジメントプロトコルを利用する必要がない状況にもあります。またUniswap V3とArrakis Finance、両方のコントラクトリスクを考慮しなければならない点などは理解しておかなければなりません。

PALM – Protocol Automated Liquidity Management

最後にPALMという仕組みについて簡単に解説し、本記事の内容を終えたいと思います。PALMとは小見出しにもある通りProtocol Automated Liquidity Managementの略称で、DAOなどのプロトコルが保有する資産をマネジメントするサービスです。

したがって読者の皆様の多くが利用される機会はあまりないと思いますが、これまでにない新しい仕組みでDEXに流動性を供給する仕組みですので、簡単に概観したいと思います。ここではArbitrumのARBトークンを例に考えてみたいと思います。Arbitrum Foundation が Arrakis Financeを通じて70%のARBトークンと30%のUSDCを提供したとします。もちろんArbitrum Foundationのような規模大きい組織が、流動性を工面することに苦労することはありませんが、多くの草の根的なプロジェクトにとってきちんと初期の流動性をDEXで確保するというのは案外大変なことなのです。

話を戻すとこのPALMを用いることで、それまでの70%:30%の状態からその割合を50%:50%にまで達するように自動調整できるのです。

Arrakis
Arrakis Financeのドキュメントを元に簡単に解説します。上記の図は、赤色:青色=USDC:ARBとして、Pが現在価格となります。現在価格であるPがLの点線部に達すると、リバランスが執行されて下記の図のようになります。上図で最も左にあったLがM1となったほか、提供されていた流動性全体が、左にリバランスされています。したがって現在価格は再び真ん中部分に位置します。

Arrakis
価格の上下に伴って上記のリバランスを繰り返すことで、50%:50%に達するよう、自動調整されます。今回の記事は以上になります。

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