LiquityとLUSDの理解を深める 後編

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はじめに

こんにちは、デフィー伍拾伍号です。前編に引き続き、後編の本記事では暗号資産担保型ステーブルコインであるLUSDとプロトコルのLiquityについてその理解を深めます。前編では、LUSDについて、他のステーブルコインが抱えている問題等を比較しながら、解説を進めました。以下では、Liquityにおける清算の仕組みやStability Poolの仕組み、分散型フロントエンドについて、より詳しく深掘りします。

清算の仕組み


引用元:Republic
まずは、Liquityにおける清算の仕組みについて概観します。

清算とは、発行者や債務者が債務を担保で完璧に裏付けることが出来ないために、第三者がディスカウントして担保を獲得し、代わりに債務を返済します。この仕組みが適切に機能することで、債権者の資産を保護することができるほか、不良債権の増加により、プロトコル全体が崩壊することを防ぎます。

LiquityではETHを担保とすることで、ステーブルコインであるLUSDを発行します。その最低担保率110%で、閾値に達した場合には担保資産や債務を管理するTrove(MakerDAOにおけるVaultとほぼ同義)が清算されます。清算が発生すれば、そのTroveの担保は後述するStability Poolに向かいます。そして担保はStability Poolへの預託者に分配されるのです。また110%というのは、最低担保率であって最大150%までの担保率であれば清算されるリスクがあることについても注意が必要です。

ここからは具体的な数字を当てはめてその清算プロセスについて考えてみましょう。さてETH価格の下落により、10,000LUSDの負債と5.45ETHの担保を持つTroveが、価格2000ドルで清算されてしまいました。Liquityの場合には最低担保率は110%でありますが、当該Troveの担保額は5.45ETH✖️2000ドルで10900ドルとなってしまい、現在10000LUSDの債務があることを考えると担保率が109%となってしまうからです。

最後にかなり細かな点になってしまいますが、最低担保率が110%であるという表現についても、解説を付け加えます。Liquityには、個別の担保比率以外にもTCR(総担保比率)というファクターが存在しています。これは言葉通り、全てのTroveを総計し、その担保比率が150%を下回っていた場合にはリカバリーモードとなります。すると仮に担保率が最低担保率である110%を上回っていたとしても、ユーザーの担保が清算される恐れがあるのです。また極めて実現可能性は低いものの、この仕組みを悪用し、任意のポジションを清算するという攻撃を仕掛けることも想定されています。

Stability Poolとは


引用元:Liquity
では、清算の仕組みを理解したところで、清算が適切に機能することを支援するStability Poolについて解説します。このStability Poolの仕組みはLiquityの特徴の一つといえるでしょう。というのもMakerDAOやレンディングのAaveなどでは、清算オークションによって、担保の清算を執行します。つまりある特定の第三者が、競売にかけられた担保を入札することで、債務を代わりに返済し清算が完了するというものです。

一方、Liquityでは、清算者がこのStability Poolにあたり、ユーザーがStability PoolにLUSDを供給するだけで成立します。具体的には、ユーザーの担保額が最低担保率を下回るとLUSDの発行者の担保であるETHがStability Poolへと移されます。その後、発行者の負債に相当する量のLUSDがStability Poolの残高からBurnされ、Troveの清算が完了するという次第です。ETH価格の下落により、発行者の担保が清算されているとはいえ、10%程度のディスカウントによって担保が清算されているので、Stability Poolへの流動性提供者は利益を得ることができます。

ただ1点注意しなければならないのは、Stability Poolの流動性提供者は、初めは全ての資産をLUSDで提供するわけですが、時間が経過し清算が発生することで、LUSDの預託を比例配分で失っていき、清算された担保を比例配分で獲得することです。というのも、Stability Poolの仕組みは、ETHである担保を割引価格で取得してそれを分配し、代わりに当該担保分、発行されたLUSDをBurnするというものです。したがって最終的にはLUSDの預託が清算によって全てETHに転換されてしまいます。

例えば、Stability Poolに合計100,000LUSDがあり、読者の皆様がStability Poolへ10,000LUSDを提供したとします。今先程の例と同様にETH価格の下落により、10,000LUSDの負債と5.45ETHの担保を持つTroveが2000ドルで清算されてしまったとします。プールシェアが10%であることを考えると、預金額は清算された負債(10,000 LUSD)の10%分、つまり10,000LUSDから9,000 LUSDに減少します。その代わりに清算された担保の10%、すなわち現在1090ドルの価値がある0.545ETHを得ることになります。したがってこの清算によって90ドルの利益を得ることが出来ました。

読者の皆様にはStability PoolにLUSDを預託することが、非常に魅力的に映ったかもしれませんが、1点注意しなければならない点があります。それは清算が発生した場合には、ETHにエクスポージャーを持つことになるという点です。清算というは、担保資産つまりETH価格が下落する場面で発生するので、仮にETHを10%ディスカウントで取得できたとして、ETH価格が大きく下落すれば損失を被る場合があります。したがって利回りの獲得のためにStability PoolにLUSDを預託をする場合、清算が発生した際にはその都度、分配されたETHをLUSDやUSDCなどにスワップしておく必要があるということです。

幸いにもStability Poolでは、担保率が110%を下回っても清算が機能しないといった特殊な場合を除き、いつでも預け入れ、引き出しが可能なほか、自動で上記のプロセスを執行するサービスもあり、比較的手軽であるかなという印象を筆者は持っています。

フロントエンドの分散化


引用元:Liquity
さてLiquityのもう一つの特長は、フロントエンドが分散化されており、プロトコル自身で独自のフロントエンドを持たないというものです。代わりに、フロントエンドオペレーターが、ユーザーに対してLiquityの各フロントエンドを提供しています。フロントエンドを提供することによって、提供者はLiquityのネイティブトークンであるLQTYを報酬として受け取ることが出来ます。

各提供者の報酬割合は、フロントエンド オペレーターによって設定されるキックバック率によって決まり、0% から 100% までの範囲で設定されます。独自のフロントエンドを実行しないことは、耐検閲性と分散化を強化することに繋がるのです。

ただこのキックバックの仕組みに関しては様々な議論があり、必ずしもその想定通りに機能していない側面があることにも注意が必要です。本記事の内容は以上になります。

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