サムネイルの引用元:Polymarket
はじめに
前編ではPolymarketの概要と仕組みについて解説しました。後編となる本記事では、さらに踏み込んでPolymarketの強みと将来性などを取り上げます。ブロックチェーン予測市場が持つ可能性と課題なども理解することで、Polymarketというプロダクトが今後どのように発展し得るのかを展望してみましょう。
Polymarketの強みと将来性
引用元:Grayscale
Polymarketの強みとしてまず挙げられるのは、そのユーザビリティとスケーラビリティです。前編で述べたようにPolymarketはPolygon上に構築されているため、低コストかつ高速な取引が可能であり、小額からでも気軽に参加できます。イーサリアム主チェーン上で動作した従来の予測市場(例:Augur v1)では、ガス代高騰時に一度の取引に数十ドルの手数料がかかることもあり、新規参入者には大きな障壁となっていました。Polymarketはその点を大きく改善し、Web3初心者でも比較的簡単に利用できるUXを実現しています。実際、Web3対応のウォレットと少額のUSDCさえ用意すれば、すぐにマーケットに参加できる手軽さがあります。プラットフォーム自体も洗練されたUIを持ち、中央集権型のベッティングサイトに近い感覚で操作できるため、暗号資産やブロックチェーンになじみのないユーザーでも直観的に使いやすい点は大きな強みです。
次に、流動性と市場規模の面でもPolymarketは他をリードしています。2024年米大統領選では、Polymarket上の大統領選勝者予想マーケットに約31億ドル相当の出来高が集まりましたが、これは同時期の米国規制下プラットフォームKalshiの約1億9700万ドルという取引額を大きく上回りました 。このように圧倒的な市場規模を達成できた背景には、Polymarketが地理的・制度的な制約を比較的受けずにグローバルな参加者を集められたことがあります。米国からの直接参加は規制上制限されていますが、それでも世界中のトレーダーが集まった結果、予測市場として前例のない流動性が実現しました。流動性が高いことは、マーケットの価格がより適切に情報を反映し、また大口の取引にも耐えられることを意味します。実際Polymarketは2022年以降累計60億ドル超の取引量を記録し、常時数百以上のマーケットが開設されているなど、そのコミュニティ規模と採用率は群を抜いています。
さらに、予測精度とデータのリアルタイム性も強みです。Polymarketはリアルタイムに変化するマーケットデータを提供し、ニュースや出来事に対する人々の期待値を即座に反映します。そのため、大手メディアが結果予測を躊躇するような局面でも、市場参加者の“肌感”がオッズに表れることがあります。事実、米大統領選挙の際にはPolymarketの示す勝率が他の世論調査や専門家予測よりも一貫して正確だったと評価される場面もありました。いわゆる「お金が懸かった予想」の集合は価値ある指標となり得ます。特にPolymarketは多様なテーマで市場が開かれているため、政治や経済からエンタメまで様々な領域の予測データをリアルタイムに取得できる情報プラットフォームとしてのポテンシャルも秘めています。
将来性の観点では、まず技術基盤のさらなる進化が期待されます。前編で触れたように、PolymarketはUMAやEigenLayerとの協力で次世代オラクルの研究開発を進めています。これが実現すれば、今まで以上に迅速で信頼性の高いマーケット決着が可能になるだけでなく、主観的な判断が入り得る複雑なイベント(例えば「ある製品の評判は良いか悪いか」といった定量化しづらい問い)にも対応できるようになるでしょう。加えて、AIの活用による自動化や、コミュニティ参加型のガバナンスによって、プラットフォーム運営がさらに分散化・高度化する可能性もあります。例えば、マーケットの作成や不正な賭けの監視などにコミュニティが直接関与できる仕組みを整えることで、より自律分散的で持続可能な予測市場になることが期待されています。
事業面では、大規模な資金調達に裏付けられた拡大戦略にも注目です。前述のとおりPolymarketは著名ベンチャーキャピタルや業界有力者からの出資を受けており、2023年前後には企業評価額10億ドル規模との報道もありました。こうした潤沢な資金は、ユーザーベース拡大や規制対応、新機能開発に投入されるでしょう。実際、スマートフォン向けアプリの展開にも力を入れており、2024年秋の米大統領選シーズンにはKalshiと並んでPolymarketがAppleのApp Storeダウンロードランキング上位に急浮上するなど 、一般層へのリーチも拡大しつつあります。将来的には、現在参加が難しい米国市場への再参入や、他国での正式なライセンス取得などによって合法的な提供地域を広げる可能性も考えられます。あるいは予測市場データの提供という形で金融機関や報道機関と提携し、Polymarketのオッズ情報が社会の指標として活用されるといった展開も期待できます。総じて、Polymarketは技術・市場双方で大きな成長余地を抱えたプラットフォームだと言えるでしょう。
予測市場としてのメリット
続いて、予測市場全般の視点からPolymarketのメリットを整理します。Polymarketはブロックチェーン上で動いているため、全ての取引や賭けの結果が改ざん不能な形で記録されています 。中央管理者に依存しないため、胴元による不正操作や配当不払いといったリスクが極めて低く、ユーザーにとって安心感があります。また結果の決定プロセスもオラクルによってコミュニティ検証されるため、公平性が担保されています 。これは従来のブックメーカー型サービスにはない信頼性の高さです。
また分散型設計のもう一つの強みは、扱える予測テーマの幅広さです。中央集権的な予測市場では法律や運営ポリシーの制約から、提供できる市場の種類に制限がかかりがちです。例えば米国の規制下では選挙結果を賭けの対象にすること自体が困難ですが、Polymarketのような分散型プラットフォームではコミュニティの関心があれば基本的にどんなテーマでも市場を開設できる利点があります。実際Polymarket上では、政治・経済だけでなくエンタメやカルチャー、テクノロジー予測まで、多彩な市場が存在しています。これは集合知の多様性を引き出す上でも有益です。
加えて前述の通り、多数の参加者がお金を投じて予想を競い合うことで、結果的に非常に鋭い予測が得られる場合があります。特にPolymarketほど参加者層が幅広く、流動性が大きい市場では、その分だけ多様な情報ソースがオッズに織り込まれるため精度が高まる傾向があります。これは政策立案者や企業経営者にとっても有用な情報となり得ますし、一般のニュース視聴者にとっても世論動向をリアルタイムで把握する手段となります。実際、Elon Musk氏が「予測市場は世論調査より正確だ」と述べたり、主要メディアがPolymarketのオッズを報じるケースも出てきています。社会的指標として予測市場データが評価され始めている点はメリットと言えるでしょう。
予測市場は参加者にとって単なる娯楽ではなく、知識や先見性を収益化する機会でもあります。他人より早く正確な情報を持っていれば、その優位性を活かして利益を上げることができます。例えば専門分野の知識を使ってイベントの結果を誰よりも正確に予測できる人にとって、Polymarketはその知見を経済価値に変えるプラットフォームとなり得ます。従来、知識や洞察は直接お金に結び付きにくいものでしたが、予測市場はそれを可能にするユニークな手段です。また一般ユーザーにとっても、ニュースをただ見るだけでなく自分の予想に「張る」ことで主体的にイベントを追うようになり、結果的に世の中の出来事への関心や理解が深まるというプラスの効果も考えられます。
まとめ
Polymarketは、ブロックチェーン技術を活用して予測市場の新たな可能性を切り開いたプロダクトです。分散型ならではの透明性・自由度の高さによって多種多様な予測市場を実現し、膨大なユーザー参加と取引量を獲得してきました。一方で、規制面でのグレーゾーンや市場運営上の課題も浮き彫りになっており、今まさに革新と社会的受容の狭間に立っていると言えるでしょう。
しかし、予測市場がもたらす社会的価値──集合知による意思決定精度の向上や、市場原理を通じた情報の民主化──は計り知れません。実際に2020年代の主要な選挙や経済イベントで予測市場が存在感を示したことで、その有用性が徐々に認知されつつあります。Polymarketの成功と挑戦は、予測市場全体の発展にとって貴重な教訓であり、今後の規制整備や技術革新の指針にもなっていくでしょう。
今後、適切なルール形成と技術改善が進めば、Polymarketのようなプラットフォームはより安全かつ参加しやすい形で広がり、世の中の「未来予測インフラ」の一部となるかもしれません。予測市場は「未来をトレードする」場であり、人類の知恵を集約する実験でもあります。その最前線に立つPolymarketの今後に注目しつつ、我々もこの新しい市場から何を学び活用できるか考えてみたいところです。