Morpho Protocolの理解を深める 前編

サムネイルの引用元: Morpho Protocol

はじめに

本記事では、Morpho Protocolと呼ばれるP2P(peer to peer)型のレンディングプロトコルについて、解説します。まず、一般にAaveやCompoundといった大手レンディングプロトコルは、Peer to Pool型を採用しています。一方で、このMorpho ProtocoはPeer to Peer型を用いており、以下ではその概要、特徴などについて理解を深めます。また後編では、Morpho Protocolが発表したBlueと呼ばれる新しいレンディングプロダクトについても詳しく説明します。では、まず本格的にMorpho Protocolの解説を行う前に、現在AaveやCompoundが抱える課題について、簡単に概観します。

AaveやCompoundの問題点

読者の皆さんはAaveやCompoundといったレンディングプロトコルで実際に貸借を行ったことはあるでしょうか。これらのモデルは非常に明確で、我々が日常、利用する銀行とほぼ変わらないものです。つまり貸し手は余剰資産をプロトコルのプールに提供することで、金利収入を得て、借り手側は提供された資産を金利を支払うことで、借りることが出来ます。

AaveやCompoundの貸出金利は主要トークンであれば2-3%程度に収束し、時に米国金利をはるかに超えるような利率を提示する場合もありますが、それは提供しているトークンになんらかの問題が生じた時だけであって大きなリスクをはらむものであります。もちろん不良債権化のリスクもあります。一方の借入金利は貸出金利に+1%程度の上乗せというのが一般的です。一般的な銀行のビジネスモデルに慣れている我々は、この金利のスプレッドに違和感を感じません。

しかし、それはDeFiにおいてはよくわからないことではありませんか。なぜなら、レンディングというプロトコルは、およそ借り手と貸し手、そしてここでは深くは言及しませんが、清算人が存在すれば成立するプロトコルなのです。したがって、この+1%程度の上乗せのスプレッドはなんなのかという疑問を持たねばなりません。ではAaveやCompoundが、この利益を独り占めしているのかというと全くそうではありません。このスプレッドはいわゆるPeer to Pool型のレンディングを採用する上で発生する非効率なのです。

AaveやCompoundでは、通常、借り手よりも貸し手が多く、資本効率が低下するためにこのスプレッドが生じます。また上記のプロトコルでは不良債権化を避けるため、貸し出し比率が一定の閾値を超えると金利が急激に上昇します。したがってこの非効率は基本的にほぼ確実に発生するものなのです。さてスプレッドが生じる直接的な原因に戻りましょう。

引用元:Morpho Protocol
例えばAaveのプールに100,000USDCが提供されていて、50,000USDCが借りられていたとしましょう。この場合に、貸し出し金利の2%はこの50,000USDCに掛けられるものなのです。したがって借入られたことによる金利収入は1,000USDCにしかなりません。AaveやCompoundでは、比例配分的に金利を分配するために、貸し出し側は元本の1%しか、金利を得られず、この場合の貸出金利は1%となります。

このように従来のPeer to Pool型レンディングでは、全員がその利害を共有するため、個人の利益が薄められてしまうのです。一方のMorpho Protocolでは貸し手と借り手を直接組み合わせる、つまりPeer to Peer型のレンディングプロトコルを構築します。その結果貸し手と借り手の両方の資本効率が向上するほか、利回りが向上し、借入コストが低下することが期待できるのです。

Morpho Protocolの概要


引用元:Morpho Protocol
さて、従来のレンディングプロトコルがはらむ非効率性を理解したところで、Morpho Protocolの具体的な概要を説明しましょう。基本的に、Morpho Protocolは、レンディングプロトコルのオプティマイザーとして機能します。具体的には、もちろん自らのプロトコル上でマッチングは行いますが、あくまでもAave や Compoundといった確立されたレンディングプロトコルの上で動くことを基本とします。

これは、そもそもコンポーザビリティ点を踏まえて、基礎となるAaveやCompoundと同じレベルの流動性、リスクパラメーターを維持しながら、貸し手と借り手の双方の効率化を目指すというものです。実際にMorpho-AaveやMorpho-Compoundなどが、現在提供されています。

では具体的にMorpho Protocolがどのように機能するかを解説します。あるユーザーAがMorpho Protocolに10,000USDCを提供したとします。借り手はおらず、ユーザーのマッチングはないものとします。この場合に、ユーザーAの10,000USDCは、Morpho内で滞留するのではなく、AaveやCompoundに提供されるため、通常の金利を得ることとなります。そして、仮にユーザーBがMorpho Protocolで10,000USDCを借り入れたとします。この場合には貸し手であるユーザーAは、Aaveの貸出金利ではなく、借入金利分の利回りを享受することができるのです。

一方で借り手のユーザーBさんは通常通りAaveの借入金利で、10,000USDCを借入することが出来ます。もちろん、借り手と貸し手が完全にマッチングすることは稀であるため、実際には、例えば先の例でいえば、ユーザーBさんが5,000USDCを借入したとします。この場合、この5000USDCは、Morpho Protocolによる最適化の対象となりますが、残りの5,000USDCは、これまで通りAaveの貸出金利収入のままとなります。最後にMorpho Protocolを利用する上で、というよりレンディングプロトコルを利用する際の簡単なtipsを紹介します。

それは基本的に貸し手は、貸すだけでなく借りた方が良い場合が多いというものです。これは金利収入を得たいユーザーの方々からすると理解できないものかもしれません。というのも担保が清算に遭うリスクもあれば、折角の金利収入が貸出金利に圧迫されかねないからです。

しかしながら、少し違うリスクを考えてみましょう。それはハッキングや不良債権のリスクに備えるためです。先にも述べたようにMorpho Protocolはレンディング上で機能するイールドオプティマイザーです。したがってハッキングのリスクはレンディングプロトコルとMorpho Protocolの2段階になります。例えばレンディングプロトコルがハッキングに遭い、担保トークンが奪われたとします。この場合に借り手はトークンを返済する理由がないのです。

したがって、最悪の場合、貸し手は提供資産の全損を被る可能性があるのです。これは可能性は低いとはいえ、不良債権リスクも同様です。しかしあらかじめ資産を貸すだけではなく借りておけば、ディスカウントは発生するにしろ全損のリスクを免れることができます。レンディングは、一見安全で利率も比較的低いため、このようなリスクには備える方が良いでしょう。さて後編では、Morpho Protocolの更なる解説とMorpho Protocolが新たに提供を開始したBlueについて解説します。

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