サムネイルの引用元:Instadapp
目次
はじめに
本記事では、Fluidと呼ばれるInstadappが開発した新しいLending Protocolについて、詳しい解説を行います。Fuildは、InstadappがAave、Compound、Uniswap、MakerDAO、Curveといった大手DeFiプロトコルの特長を集約し、開発した革新的なLendingプロトコルです。Fluidの中核となるのは、Liquidity Layerと呼ばれる基盤レイヤーです。
Liquidity Layerは、各DeFiプロトコルの流動性を一元管理し、プロトコルの自動的な制限設定やユーティリティ率の管理、様々なレートモデルの展開を可能にします。ユーザーはLiquidity Layer上に構築されたプロトコルを通じて、預け入れ、引き出し、借り入れ、返済などの操作を行います。本記事では、Instadapp自体の概要を簡単に振り返ったのちに、現在のLendingプロトコルが抱える問題について解説を加えます。その後、Fluidが革新的なサービスについて詳しい解説を行います。
Fluidの開発元であるInstadappとは
Fluidの解説に入る前にまず、Fluidの開発を行うInstadappについて概観します。Instadappがこれまで提供してきたサービスや、彼らの考え方を理解することはFluidの誕生理由やFluidが実現したい未来を理解する上で非常に重要な手がかりを与えてくれます。Instadappは、リテールユーザー向けのDeFiマネジメントツールとして、2018年にサービスを開始しました。例えばスマートアカウントという機能は、ユーザーの指定に基づいて、その資産を管理し、複数のDeFiプロトコルにまたがるポジションを単一のアカウントで保有できるようにします。これにより、ユーザーのポートフォリオ管理が簡素化され、ガス代を削減することに繋がります。
またInstadappは、Ethereum、Polygon、Optimismなどの複数のブロックチェーンをサポートしており、ユーザーはさまざまなネットワーク上でDeFiプロトコルを利用できます。このように多くのユーザーにとって手間のかかる作業をより最適に、効率的に行える点がInstadappの大きな特長の一つであり、強みでしょう。
Fluidの根幹をなすLiqudity Layerとは
引用元:X
ここからは、Fluidが構築するLiquidity Layerという概念について、既存のLending並びにDeFiプロトコルが抱える問題を理解しながら、解説したいと思います。まずFluidが解決に向かうDeFiエコシステムの問題は、Liquidity Fragmentation、いわゆる流動性の分断化というものです。特に大手のDeFiプロトコルでは、UniswapV2, V3, V4、AaveV2,V3とバージョンの異なるプロトコルが次々と登場します。その一方で流動性インセンティブがない場合、古いバージョンに比べて十分な流動性を獲得するまでに長い時間がかかります。もちろん大手のDeFiプロトコルは資金も潤沢に保有するため、バージョンの以降が生じても積極的な流動性の移転が行われますが、それでも過去のプロトコルバージョンに流動性が留まる例は枚挙にいとまがありません。
FluidのLiquidity Layerは柔軟でオープンな特性により、この問題を解決します。ユーザーは、Liquidity Layer上の1つのプロトコルから別のプロトコルに移行しても、Liquidity Layer上の流動性は変化せず、レートも変動しません。つまり、ユーザーは流動性を分断させることなく、新機能を即座に利用できるようになります。具体的に例を通じて、先の状況の理解を深めます。ユーザーAは、自分の余剰資金を使ってDeFiで利回りを得たいと考えているとします。そこで彼は、レンディングプロトコルAにステーブルコインを預けて、利息を獲得することを考えました。
しかしながら、ある日、新しいレンディングプロトコルBがローンチされました。プロトコルBは、プロトコルAよりも高い借入需要を見込んでおり、貸し手により高い金利を提供できる可能性があります。しかし、新しいプロトコルにはまだ十分な流動性がないため、ユーザーAは自分の資金をプロトコルAから引き出してプロトコルBに移動させることを躊躇しています。資金を移動させると、プロトコルBで十分な借り手がつかない可能性があり、結果的に利回りが低下するかもしれないからです。ここで、プロトコルAとプロトコルBがどちらもLiquidity Layer上に構築されていたとします。この場合、ユーザーAはプロトコルAからプロトコルBへの移行を簡単に行うことができます。彼がプロトコルを切り替えても、Liquidity Layer上の流動性は変化せず、金利も安定したままです。つまり、ユーザーAは、新しいプロトコルの機能を即座に利用でき、より高い金利を得るチャンスがあります。
同様に、借り手の立場から見ると、プロトコルBが新しい機能(例:より高いLTV(Loan to Value Ratio))を提供していたとしても、流動性が不足していれば、その機能を利用するのは難しいかもしれません。しかし、Liquidity Layerがあれば、借り手は新しいプロトコルの機能をすぐに利用できるようになります。このように、Liquidity Layerは、新旧のプロトコル間の流動性の分断化を解消し、ユーザーがシームレスに新しいプロトコルの機能を利用できるようにします。これにより、DeFiエコシステム全体の効率性と利便性が向上するのです。
Liquidity Layerを支えるAutomated Ceiling機能とは
引用元:Instadapp
Liquidity Layerのもう1つの大きな特徴は、Automated Ceilingと呼ばれる自動制限機能です。これは、従来の金融システムにおける1日あたりの支出制限のような仕組みを取り入れたもので、資金の大量移動をモニタリングし、プロトコルのリスクを軽減します。Automated Ceilingは、資金が制限に近づくとデット/コラテラルの上限を動的に調整し、通常の借り入れは許可する一方で、急激な大口の動きを制限します。これにより、プロトコルにコードの脆弱性や経済的な不正操作があった場合でも、Liquidity Layerが異常な大量の借り入れや引き出しを制限し、損失を最小限に抑えることができます。本記事では、Instadappが開発を進めるFluidについて、その根幹であるLiquidity Layerの概念を解説しました。後編では、Fluidが提供するより具体的な機能について詳しい解説を行います。