こんにちは!弐号です。
DeFiで米ドル運用する場合に欠かせない米ドルと価格連動をしている「ステーブルコイン」ですが、その価格連動が外れてしまい、いわゆる「デペグ」という状態になってしまうことがあります。
せっかく米ドル建てで安定運用していたとしても、コインの価格がある日突然0.1ドルになってしまった……なんて事態になってしまったらほぼ全資産を失ってしまうことになりかねません。
そこで本記事ではいかにステーブルコインのデペグリスクを減らせるのか、またそれを完全回避する方法とは!?という話をさせていただきます。
目次
ステーブルコインとデペグリスク
2022年5月に米ドルステーブルコインである「UST」の価格が崩壊(デペグ)し、ほぼ無価値になってしまったことによりUSTを利用して利殖を行っていた多くのファンドが損失を抱えることとなりました。
DeFiで米ドル建てで運用を行う場合には、ブロックチェーン上に資産を持っていくために何らかのステーブルコインを購入する必要があるのですが、どうしてもステーブルコインにはこの「デペグリスク」がつきまとってしまいますので、自分でステーブルコインのリスク評価を行い、リスクが低いことを確認する必要があります。
特にアルゴリズム型と呼ばれるステーブルコインには、価格が1ドルを下回ってしまった場合の価格維持の仕組みが弱くて危険なものが多く、実際UST以外にも執筆時点(2020年6月)で人気のあるUSDDやUSDNなどのステーブルコインは0.96〜0.98ドル程度と2〜4%も下方向にデペグした状態で取引されています。
担保型のステーブルコインは比較的安全であると考えられますが、担保型であっても保有する担保が格付けの低い公社債であるなどの理由で担保割れしてしまう可能性があり、そうなってしまうと(0にはなりませんが)1ドルを下回ってしまう可能性も否定できません。
実際、Tehter USD (USDT) は担保の一部を利回りがいいが格付けの低い債権として持っているのではないかと噂されており、そういった噂が飛び交った際に3%程度の下方向のデペグが起きたこともあります。
繰り返しになりますが、もし自身が持っているステーブルコインがこのようなデペグを起こしてしまった場合には、資産の大幅な毀損を招き、最悪の場合にはFIRE生活を諦めて働かなくてはならなくなる可能性もありますので、絶対に起きないように注意したいところです。
また、別ベクトルの話として新興のアルゴリズム型ステーブルコインはユーザ数を増やすために大量の流動性報酬をばら撒くことが多々ありますので、そういったアルゴリズム型ステーブルコインを利用することで非常に高い利率を実現できることもあります。
しかし新しいステーブルコインはまだ歴史が浅く、たまたま攻撃手法が見つかっていなかったためにデペグしなかっただけで、実際には非常に危険な設計となっている場合もあります。
もしデペグリスクを回避(ヘッジ)しつつ、そういった高い利率のステーブルコインで利殖ができるのであれば願ってもないことです。
そこで、本記事ではステーブルコインのデペグリスクをヘッジする方法をいくつか紹介したいと思います。
デペグリスク回避法
その①:信頼性の低いステーブルコインは使わない
まず1つ目は、そもそもデペグリスクの高いステーブルコインを使わない、というものです。
当たり前すぎる話なのですが、デペグリスクのないステーブルコインだけを使っていれば、デペグすることはありませんね。
例えば米Circle社の発行するUSDCというコインは、2022年5月末時点で、22.9%を現預金として、残りの77.1%すべてを米国債として保有しており、安全性は比較的高と言えるでしょう。
現預金はそのまま米ドルとして出金できますし、米国債もアメリカが財政破綻しない限りは償還期限には必ず償還されることが保証されるためです。
米国債も債権の一種なので、アメリカがデフォルトしてしまったら償還されませんが、もしそうなってしまったらそもそも米ドル自体の価値がほぼ無価値になってしまいますので、これも回避しようというのはこの記事のスコープ外の話です。
とはいえ、スマートコントラクトのバグでコインが勝手に増やされてしまったり、また何らかの理由によりUSDCの償還が殺到し現預金が枯渇してしまった場合には米国債を売却することで賄う必要がありますが、流動性が少ないなどの理由で米国債の売却がスムーズに行かない場合なども考えられますので、100%安全とは言い切れません。
ただそもそも、安全性について完璧を目指そうとすると銀行預金であっても日本国内では1,000万円まで(アメリカでは10万ドルまで)しか保証されていませんし、いくら安全なステーブルコインを使っていたとしてもDeFiプロトコルの脆弱性やウォレットの秘密鍵の漏洩のリスクなどもありますので、完璧を目指すのは不可能です。
従って、最終的には「自分が許容できるリスクはどの程度までか?」を見極めて、リスクを正しく理解した上でステーブルコインを購入する必要があります。
リスク許容度は人によってマチマチですので、当サロンとして「これなら安全だ」とか「このステーブルコインは危険だからやめろ」という具体的なアドバイスをするのは難しいです。
ただし、それぞれのコインにどのようなリスクがあるのかといった情報提供については当サロンで今後拡充していく予定ですので、そちらの情報を参考に「自分の許容できるリスク範囲内のステーブルコインリスト」を作ってみてくださいね。
その②:レンディングで借り入れを行う
ステーブルコインのデペグリスクを避けるもう一つの方法は、レンディングプラットフォームを利用してステーブルコインを借りることです。
例えば10万ドル=10万枚のコインを借りて、そのコインを利用して利殖していたとすれば、たとえそのコインの価値が1/10になってしまったとしても、借り入れ分の10万枚のコインも1/10の価値になっていますので返済することができます。
注意点としては、レンディングプラットフォームから借り入れを行う際には担保として別のコインを預け入れる必要があり、借り入れできるコインの枚数は預入額よりも低く(一般的には75%〜90%程度)なってしまうため、資金効率が悪くなってしまうという点です。
例えば、(USDCは安全だと仮定して)50万ドル分のUSDCを持っており、そのコインを担保にしてUST(既にデペグしてしまったコインを敢えて例として使っています)をAnchorというDeFiで運用したいとします。
このときどうすればいいかというと、使うレンディングプラットフォームの担保掛け目を80%として、
- レンディングプラットフォーム: (預入)500,000 $USDC、(借入)400,000 $UST
- Anchor: 400,000 $UST
といった資産構成になります。
このとき利子としては
- 受取利子: レンディングプラットフォームの 500,000 $USDC、Anchorの 400,000 $UST
- 支払利子: レンディングプラットフォームの 400,000 $UST
を同時に受け取りつつ支払うこととなります。
従って、この利子の差分が最終的な収益(表面利回り)となります。
収益 = (レンディングプラットフォームの 500,000 $USDC) + (Anchorの 400,000 $UST) - (レンディングプラットフォームの 400,000 $UST)
例えば利率がそれぞれ
- レンディングプラットフォームのUSDCの貸出利率: 5%
- レンディングプラットフォームのUSTの借入利率: 10%
- Anchorの運用利率: 20%
とすると実質的な年利回りは
(年利) = ( (500,000 × 5%) + (400,000 × 20%) - (400,000 × 20%) )
= ( (500,000 × 5%) + (400,000 × 20%) - (400,000 × 20%) ) / 500,000 = 13%
となります。
ここで重要なのが「(Anchorの運用年利) > (レンディングプラットフォームのUSTの借入年利)」となることです。
これが逆転してしまうと損をしてしまいます。
今回例としてとりあげたAnchorは実はレンディングプラットフォームですので、このスキームの場合には二つのレンディングプラットフォームの間のアービトラージになってしまっており、第三者によるアービトラージによりいずれこの二つの利率は一致するところで落ち着くはずでが、もし運用先がAMMなどであれば必ずしも同じ利率にはならないので、ワークします。
もし直接USTを購入しAnchorで利殖すれば利率は20%となりますので、利率だけを見ると落ちてしまいますが、USTのようなデペグの危険性の高いステーブルコインで運用する場合にはこのようなスキームを取ることでリスクヘッジをしつつある程度の利回りを取ることができます。
ただし、このスキームでも一つ欠点があります。
それはレンディングプラットフォームに預け入れるコイン自体のデペグリスクを回避できていないというところです。
上記の例で言うとUSDCのデペグリスクは回避できていません。
DeFiのレンディングプラットフォームは何らかのコイン類しか取り扱えないため、これは仕方のないことではありますが、タイトルにあるような「完全回避」のスキームではないですね。