流動性マネジメントとArrakis Finance 前編

サムネイルの引用元:Arrakis Finance

こんにちは!デフィー 伍拾伍号です。

はじめに

本記事ではUniswap V3上において、提供した流動性を最適化するサービスであるArrakis Financeについてその概要や具体的な仕組み、リスクについて理解を深めます。本記事は、前後編とありますので、後編をご覧になる方は、こちらから参照お願いします。

まず本格的にArrakis Financeの解説を行う前に、現在Uniswap V3が抱える問題について、簡単に概観します。Uniswap V3では、Concentrated Liquidity(集中流動性)という仕組みが採用されています。

集中流動性とは流動性提供者として流動性を提供する際にその価格範囲を指定するもので、それまでのUniswap V2や多くのDEXが採用する無限範囲の流動性提供と比較して資金効率を圧倒的に高める仕組みです。

集中流動性がどのように資金効率を上昇させるかについては、以下の例を参考に考察します。

例えば、Uniswap V2においてUSDC-USDTのペアで流動性を提供した場合を想定します。基本的にドルステーブルコインというのは、ドル建でみれば、1ドルから価格が大きく変化するような例は稀です。確かに最近ではシリコンバレー銀行の破綻よる影響で、USDCを含めた多くのステーブルコインが一時的に1ドルから大きく価格を乖離させましたが、これは非常に稀な例といって良いでしょう。

この事実から考えられることは、仮に広範囲に流動性を提供したとしても、トレーダーには1ドル付近の流動性しか利用されないため、それ以外の範囲で流動性が提供されていることは、非効率と言って良いでしょう。

この非効率性の問題を解決したのが、Uniswap V3の大きな特徴であり、実際にUSDC-USDTなどのステーブルコインのペアでは、1ドル付近にその流動性が集中しています。

上記ではステーブルコインのペアを例としましたが、ETH-USDCのようなペアでもある程度、提供された流動性は集中しています。

Uniswap V3のドキュメントなどを確認すると、最大で4000倍ほど資金効率が上昇するとも述べられており、その高さは誰の目にも明らかでしょう。

Uniswap Labs Blog https://blog.uniswap.org/uniswap-v3

では反対にUniswap V3の問題点はなんでしょうか。それは、集中流動性提供によって、流動性提供者同士に格差が発生するということです。

流動性提供者がDEXに流動性を提供する最大の理由は、トレーダーがスワップ取引を執行する度に支払う取引手数料の全てもしくは、一部を受け取れることにあります。

つまり、十分な取引手数料を得られなければ、流動性を提供する意味はほとんどないですし、ステーブルコインを除いたほぼ全てのペアでは、トークン自体の価格の下落や、インパーマネントロスによって流動性提供者が損失を被るリスクがあるのです。

そしてUniswap V3に代表される集中流動性のDEXでは、現在価格が提供している流動性の範囲を超えた場合、取引手数料は発生しません。

もちろん流動性を広く提供すれば、手数料を稼げないリスクは減少しますが、その分資金効率も悪化します。

よって価格推移を上手に予測して流動性を提供できる者とそれ以外の者でその収益に格差が生じるのです。

実際にCointelegraphなどの調査(https://cointelegraph.com/news/half-of-uniswap-v3-liquidity-providers-are-losing-money-new-research) によると、2021年にはUniswap v3の流動制提供者の約50%は、インパーネントロスなどの影響により、マイナスのリターンを計上しています。

この他に得られた取引手数料を再投資するためには、その度にトランザクションを実行しなければならないなどUniswap V2に加えて新たな手間が生じたことは紛れもない事実です。

この問題の解決策として利用が期待されるのがArrakis Financeなどの流動性マネジメントプロトコルです。Uniswap V3における問題点は、上記以外でも挙げられるのですが、一旦留めてArrakis Financeの解説に移りたいと思います。

Arrakis Financeの概要

Arrakis Financeは、2021年に誕生した流動性マネジメントプロトコルで、その前身のGelato Financeを含めてArrakis Finance V1、Arrakis Finance V2とサービスを展開してきました。

Arrakis Financeは、Uniswap V3上でより柔軟な流動性提供の戦略を実行することができるマーケットメイキングプロトコルです。流動性提供者は、Vaultに当該の流動性を提供することで、自動化され、資本効率も高く、また透明性のある方法で流動性を管理することができるのです。今回は、まずArrakis FinanceのV1についてその理解を深めた後に、Arrakis FinanceV2の新しい機能やその向上点について具体的な解説を行います。

Arrakis Finance V1の概要

Arrakis Finance V1では、Vaultと呼ばれる流動性マネジメント用のコントラクトが設定されます。

上記の通り、そのVaultにプロジェクトまたはユーザーは資金を提供し、そのマネージャーは、流動性を提供する範囲やポジション自体の変更を管理します。

したがってUniswapV3であってもUniswapV2のように利用が可能となり、流動性提供の範囲をどこに設定すればよいか、いつリバランスを実行すべきかなど複雑な戦略を考える必要がなくなります。

Arrakis Financeでは、独自のVaultマネージャーとしてBene Gesseritsとよばるストラテジストが存在しますが、マネージャー自体はVaultを開設することで誰もが担うことができます。よってユーザーは、その戦略に合わせて自由にVaultのマネージャーを選択することできます。

ここからは、上段で紹介したBene Gesseritsと呼ばれるVaultについてその具体的な仕組みや戦略を理解します。

Bene Gesserit Vaultは主にDAOなどのプロジェクト向けに流動性提供をサポートします。具体的には、より深い流動性を必要とし、既存のVaultなどでは対応が難しいプロジェクトには、Bene Gesserit Vaultを適応します。

Arrakis FinanceのV1にも、当然一般ユーザー向けのVaultは、設定されていますが、それらに関しては Arrakis Finance V2の解説を下記でする際に引用致します。

まず第一にArrakis Finance側が当該のプロジェクトにどのくらいの期間、どの程度の深さで流動性が必要となるか、また独自の資金を展開しようとしているのか、外部の資本を引き付けるためなのかなど、具体的な戦略目標を相談します。

Arrakis

その後、目標が策定された後に、Bene Gesserit は過去数か月間の価格変動のモンテカルロシミュレーションを実行します。

モンテカルロシミュレーションとは、将来の不確実な事象の起こり方が分かっている場合に、その乱数を用いて確率分布に従う多数(1,000、1万、10万など)の事象を発生させて、その結果がどのような分布になるか、例えば正規分布に従うなどを検証する方法です。

したがってArrakis Finance V1の場合には、当該のプロジェクトトークンの価格がどのくらいの確率でどの範囲に収まるのかなどを調査します。

この点に関しては毎週、Arrakis DAO内でVaultのリバランスについての会議が開催され、最近の価格変動に関してすべてのVaultで調査が行われます。その度にモンテカルロシミュレーションが再実行され、流動性提供の範囲の修正や範囲自体のリバランスが実行されます。

ただリバランスは通常、非常にコストの高い動作になりますので、現在価格が流動性提供の範囲を超える場合、もしくは著しく資金効率が悪化した場合にのみ選択されます。

注意 : Arrakis Finance V2がサービスの提供を行っており、ここで紹介する内容が必ずしも、利用できる訳ではありません。前編の内容は以上になります。

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