Ethenaの理解を深める 前編

サムネイルの引用元:Zerocap

はじめに

本記事では、Ethena labが開発した分散型ステーブルコインのUSD.eについて解説します。USD.eは、USDCやUSDTといった法定通貨担保型ステーブルコインや、DAIやLUSDのような暗号資産担保型ステーブルコインとは全く異なった仕組みで機能するデルタニュートラルステーブルコインです。前編である本記事では、従来のステーブルコインの問題点や、デルタニュートラルの仕様などを一歩一歩解説し、Ethenaのより詳細な仕組みについて理解を深めます。

既存のステーブルコインの課題

法定通貨担保型のステーブルコイン

法定通貨担保型のステーブルコインとは、主に米ドルなど法定通貨による裏付けがなされているステーブルコインのことを指します。基本的な仕組みとしては、カストディアンが法定通貨を保管し、その法定通貨と同価値、つまり1対1の割合でステーブルコインを発行します。USDCやUSDTといった大手のステーブルコインはこの仕組みを採用しています。また近年では、金利上昇の影響を受けて、公社債を裏付け資産とする場合も増えています。

法定通貨担保型ステーブルコインの特長は、他の仕組みを採用するステーブルコインと比較して価格の安定性が堅固であることが挙げられるでしょう。確かに裏付け資産の不透明さなどから、これまでDepegが発生したことがないわけではありませんが、特にUSDT、USDCなどは暗号資産の歴史を踏まえると、長くまた多くのユーザーに利用されていきた歴史があります。

法定通貨担保型ステーブルコインの最も大きな課題は、先に述べた準備金の管理が単体もしくは極めて少数の事業者によって行われていることです。つまり他のステーブルコインと異なり非常に中央主権的であって、事業者に依るリスクが非常に大きい点が挙げられます。

暗号資産担保型ステーブルコイン

上記で問題となった分散性に対応するステーブルコインの仕組みとして提案されているのが、暗号資産担保型ステーブルコインと呼ばれるものです。暗号資産担保型ステーブルコインは、法定通貨担保型ステーブルコイン担保部分をETHなどの暗号資産に変えたもので、DAI、LUSD、CurveUSDなどが挙げられます。分散性という課題に対して解決策を提示した暗号資産担保型ステーブルコインですが、その分資金効率性は悪化しています。

というのも基本的に1ドル相当のステーブルコインを発行するためには、1ドル以上の暗号資産を担保としなければなりません。また近年ではDAIに代表されるように裏付け資産の多様化が進められており、必ずしも全ての裏付け資産が暗号資産担保となっていないほか、USDC、USDTのようにリアルワールドアセット(RWA)を採用する例も増えています。

Ethenaの機能させるデルタニュートラル戦略とは


引用元:北浜投資塾
さて、Ethenaの詳しい仕組みを解説する前にデルタニュートラル戦略について解説します。デルタニュートラルとは文字通り、デルタをニュートラルにするという意味で、デリバティブ取引においては、頻繁に用いられる用語です。デルタとは、原資産の価格変動に対する、デリバティブ価格の変動率のことを指し、-1から1までの数字で表されます。

例えば、あるオプションのデルタが0.5の場合、原資産価格が10上昇した際に、オプションのプレミアムは 5上昇することを意味します。したがって原資産に対する感応度と言えば良いでしょうか。そのデルタをニュートラルにするということは原資産の価格変動の影響を全く受けないということを意味します。

さてここからは、具体的にEthenaの仕組みになぞらえて、デルタニュートラルを解説します。ここでは詳細な仕組みより、イメージを得ることを優先します。まずEthenaにおいてユーザーは、原資産であるstETHを保有します。この状態は、当然デルタが1です。ユーザーはstETHを保有したことによるステーキング報酬を得ます。その後デルタをゼロにするためにショートポジションの設定が設定されます。

具体的にはBinanceやBybitなどのCEXやGMX、dYdXなどのDEXにおいて同価値分のショートポジションを取ります。仮にETHの現在の価格が2000ドルとして、ユーザーが10stETHの保有をしていた場合には、その価値は2000ドル × 10 ETH = 20,000ドルとなります。同様にショートポジションも10 ETHとなります。このため、たとえETHの価格が変動しても、現物のstETHの価値の増減とショートポジションの損益が相殺されるため、ポートフォリオ全体の価値は変わりません。

ユーザーAはETHの価格変動に関係なく、ステーキング報酬を得ることができます。ここまでで、Ethenaのデルタニュートラルステーブルコインの仕組みが掴めたかと思います。さて先ほどEthenaではステーキング報酬が獲得できると述べましたが、Ethenaに高い利回りをもたらしているのは、ステーキング報酬だけではありません。以下でその詳細を解説します。

資金調達レートを理解する


引用元:ginoongbakulaw
さて上記では、Ethenaにおいてデルタをニュートラルにするために、DEXやCEXを利用してショートポジションを取ること説明しました。しかしながら、無期限先物を利用するにあたって一点注意すべき点があります。それは、資金調達レートです。基本的に無期限先物価格と原資産の価格との間にわずかな違いがある場合があります。というのも、例えば市場が上昇基調の場合、人々は相対的にロングポジションを取る傾向にあります。この場合に無期限先物のロングポジションの需要が高まり、無期限先物価格は現物価格よりも高くなる可能性が生じるのです。

したがってこの需給を調整するために、多くの先物取引所では資金調達率という一種の金利を貸しています。資金調達率が正の場合、つまりロングポジションを取っているユーザーは、ショートポジションを取っているユーザーに金利を支払う必要があり、その逆もまた同様です。よって例えば、正の資金調達率が課される場合には、ブルマーケットと捉えることができ、負の資金調達率が課される場合にはベアマーケットと言えるでしょう。仮にETHの資金調達レートは約-0.015%であるとします。

この金利は通常8時間ごとに支払われます。したがって、ETHのショートポジションを100,000ドル取っている場合には8時間ごとに15ドルの金利収入を獲得することができるのです。USD.eにおける利回りをstETHの現物を保有した場合のステーキング報酬とショートポジションを構築した際の資金調達レートによる金利収入ということができます。本記事の内容は以上です。

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