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目次
はじめに
本記事では、Ethena labsが開発した革新的な分散型ステーブルコインであるUSDeについて詳しく解説します。USDeは、USDCやUSDTのような法定通貨担保型ステーブルコインや、DAIやLUSDのような暗号資産担保型ステーブルコインとは全く異なる仕組みで機能する、デルタニュートラルステーブルコインです。
本記事では、前編の内容を踏まえ、USD.eのリスクや持続可能性などを中心に理解を深めます。USD.eは、デルタニュートラルを維持する上でのリスク管理やDEXのみならずCEXでポジションを管理する上でのカストディに関するリスクなど、非常に複雑な要素が絡み合っている経緯があります。読者の皆様がUSD.eを利用される上で、どのような点に注意を向ければいいのかなど、ポイントを踏まえながら、一歩一歩解説します。
既存のステーブルコインの課題とUSDeの優位性
前編でも触れたように、USDeはCEXやDEXなどをそれぞれ巧妙に利用しながら、高い資本効率と安定性を目指しており、またデルタニュートラルという従来のステーブルコインにはない仕組み、エアドロップの期待などからステーブルコイン市場において強力な地位を築き始めています。実際に記事の執筆時点で、DeFillamaのTVLランキングでは堂々の15位についており、30億ドルを超えるTVLを誇ります。
またUSDCやUSDTといった従来のステーブルコインの多くは保有者にリターンを提供していませんが、このUSDeは、分散型のイールド生成資産として設計されており、ユーザーにリターンを提供し、投資手段としての魅力を高めています。USDeは、安定性と資本効率性に重点を置き、上記の問題に対して一つのソリューションを提供していることに疑いの余地はないでしょう。
Ethenaのリスク管理施策
以下ではEthena labによるUSDeに関連するリスク管理施策ついて説明します。まず考慮すべきは資本リスクです。Ethenaは前編で述べたようにデリバティブの一種である無期限先物を使用して資産担保をヘッジしています。その点において注意しなければならないのは、ファンディングレートがマイナスになった場合です。前回の説明の通り、暗号資産市場全体が上向きで、無期限先物のショートポジションに対してロングポジションを取るユーザーが多ければ、ショートポジション側はファンディングレートの恩恵を受けて、金利を獲得します。
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一方、その反対、特に長期的にプラスのファンディングレートは、Ethenaのリターンを大きく低下させる可能性があります。例えば、Terra、Three arrows capital、FTXの崩壊を経験した2022年などは、長期間BTCやETHなど、主要なトークンの価格が値下がり続けました。したがって市場の低迷期に、USD.eを利用する場合には、現在のような高い利回りを必ずしも享受できない可能性があるほか、プロトコル自体の維持が困難になる可能性も考慮に入れなければなりません。しかしながら、大手中央集権取引所のデータによると、マイナスの利回りは通常長く続かず、最終的にはマイナスの平均値に戻る傾向にあります。
実際に過去3年間、ETHのファンディングレートは6%から8%の範囲で推移しており、LST担保を使用することで、年間3%から5%のリターンを得ることができ、マイナスのファンディングに対する追加の安全性を提供します。また先ほどプロトコル自体の維持が困難になる可能性を指摘しましたが、Ethena側のリスク管理戦略として、EthenaではLSTの資産とショートの永久ポジションがマイナスのファンディングレートになった場合に介入する準備金を保有しています。
Ethenaの清算リスク
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Ethenaでは、現物のETHとBTCをデリバティブのショートポジションの担保として使用し、ステーキングしたイーサリアム資産を追加の担保として使用しています。担保の価値が取引所が要求する維持マージンを下回ると、ユーザーのポジションは清算されてしまいますが、Ethenaは、ドル資産ではなく、ETHなどの商品を担保として使用しており、価格が上昇すると価値が増加するため、強制清算のリスクは軽減されます。また他のリスク管理戦略として、Ethenaは取引所間で担保をローテーションさせ、準備金をすばやく投入してヘッジポジションを適切に管理することができます。
カストディリスク
Ethenaの資金は第三者のカストディアンによって保管されており、この点は現在の市場環境では妥協点となっています。これらのカストディアンの運用能力は非常に重要であり、入出金や取引所との連携に問題が発生した場合、プロトコルの効率性やUSDeの発行と償還に影響を与える可能性があります。この点におけるリスク管理戦略として、Ethenaは「オフエクスチェンジ決済」のカストディを採用しています。これは、資金が実際に取引所に入らず、Ethena、カストディアン、取引所が共同で管理するというものです。この仕組みにより、中央集権型取引所における単一障害点のリスクを低減し、資金の安全性を向上させます。
中央集権型取引所のリスク
Ethenaはデリバティブポジションは複数の中央集権型取引所で取引されています。これらの取引所が突然利用できなくなった場合、当然Ethenaはリスクに直面します。また、これらの取引所でのEthenaのショートトレードには、カウンターパーティーリスクがあります。Ethenaではそのリスク管理戦略として、Ethenaは店頭(OTC)サービスプロバイダーを通じて担保資産を管理、統制しており、単一の取引所で問題が発生した場合の潜在的な損失を軽減しています。取引所が破綻した場合、Ethenaは担保を他の取引所に移動させ、清算されていないポジションをヘッジすると述べられています。
LST資産リスク
最後はLST資産リスクです。EthenaではstETHなどのLSTを保有することで利回りをさらに向上させている側面がありますが、そのLSTの運用において、大規模なスラッシング等何らかの問題が生じれば、stETHとETHに乖離が発生する可能性があります。ただここ数年例えば、stETHとETHにおいて、価格差は0.3%を超えたことがなく、このリスクの可能性は低減されています。