LST, LRTとether.fi後編

サムネイルの引用元:ether.fi

はじめに

本記事では、Liquid restaking token (LRT)を活用した、分散型ノンカストディアルステーキングプロトコルであるether.fiについて解説します。ether.fiの大きな特徴の1つは、ステーカーが自身の秘密鍵を管理できることです。この点は、セキュリティとカストディの面に大きな利点をもたらしたと言えるでしょう。加えて、ether.fiにはノードサービスマーケットを創出する機能が組み込まれています。これらの仕組みにより、ether.fiは単なるステーキングプラットフォームを超えて、Ethereumのインフラストラクチャサービスを提供するアプリケーションとしても機能します。

ステーカーはETHをステークするだけでなく、ノードサービスの提供にも参加できるようになり、一方、ノード運営者は自身のインフラを活用して収益を得る機会を得られます。本記事では、ether.fiがどのようにしてEthereumのステーキングエコシステムに革新をもたらし、ユーザーの自律性と収益機会の拡大を同時に実現しようとしているのかについて、詳しく解説します。

ノンカストディアル型ステーキング


引用元:ether.fi
ether.fiの最も重要な特徴は、前編でも述べたように、ステーカーが自身の秘密鍵を管理できる点です。これにより、ユーザーは資産の所有権と制御権を保持したままステーキングを行うことができます。従来のステーキングプロトコルでは、ステーカーがETHを預け、ノード運営者がステーキングの認証情報を生成・保持するのが一般的でした。これでは、仮にプロトコルがノンカストディアルと称していても、実質的にはカストディアルまたは準カストディアルな仕組みとなり、ステーカーに大きなカウンターパーティリスクをもたらす可能性がありました。

ether.fiでは、ステーカーが32 ETHを預金コントラクトに預けると、出金用のvaultと、そのvaultの所有権を付与する2つのNFT(T-NFTとB-NFT)が発行されます。ステーカーは割り当てられたノード運営者の公開鍵を使用してバリデーターキーを暗号化し、オンチェーントランザクションとして提出します。ノード運営者はこの暗号化されたキーを復号化してバリデーターを起動します。このプロセスにより、ステーカーはETHの管理権を保持したまま、ノード運営者にステーキングをデリゲートすることが可能となります。

このノンカストディアル型アプローチは、カウンターパーティリスクを大幅に軽減し、ステーカーの資産に対する所有権を保持します。また、完全なノンカストディアル性を実現することで、規制上のリスクも軽減することができます。将来的には、分散型バリデーター技術(DVT)の導入も計画されており、さらなるセキュリティと分散化の強化が期待されています。

バリデーターごとのNFT発行について

ether.fiのもう一つの重要な特徴は、先述したプロトコルを通じて立ち上げられる各バリデーターに対してNFTが発行される点です。T-NFTは30 ETHの価値を表し、譲渡可能で流動性プールに預け入れることができます。一方、B-NFTは2 ETHの価値を表し、soul bound(譲渡不可能)であり、バリデーターのパフォーマンス監視責任を示しています。また、これはスラッシング保険の免責額としても機能します。これらのNFTは、ステークされた32 ETHの管理だけでなく、バリデーターに関する重要な情報(使用するクライアントの種類、地理的位置、ノード運営者の情報、実行中のノードサービスの詳細など)も同様に記録します。このNFTシステムは、ether.fiに更なる柔軟性をもたらし、将来的にはEigenLayerとの統合によってさらにこの機能が強化される可能性があります。

加えてB-NFTは、バリデーターのパフォーマンス監視に対するインセンティブを提供し、保有者は追加のリスクと責任に対して約50%という高い利回りを得ることができます。また、スラッシング保険の免責額として機能することで、ネットワークの安全性向上にも貢献します。この2つのNFTの仕組みによって、ether.fiは従来のステーキングプロトコルよりも柔軟で機能豊富なステーキング環境を提供し、将来的にはステーキングポジションの部分的な取引や、より複雑なDeFiアプリケーションとの統合も可能になる可能性もあります。

Liquid Staking Token(eETH)について


引用元:ether.fi
ether.fiのLSTであるeETHは、ステーキングプロセスを簡素化し、ユーザーに追加の収益機会を提供する上で重要な役割を果たします。eETHの最も注目すべき特徴は、自動リステーキング機能です。これにより、プラットフォームにステークされたETHが自動的に追加の報酬を獲得することができます。上記でも述べたように、eETHはEigenLayerと統合されており、保有者はEthereumのベースレイヤーを超えた様々なソフトウェアモジュールの検証に参加することができます。

これにより、潜在的な収益機会が大幅に拡大されます。つまり、eETH保有者は、ether.fiのステーキング報酬とEigenLayerからの追加報酬の両方を受け取ることができ、これにより従来のLSTよりも高い潜在的収益が期待できます。また先述したように、eETHはether.fiのノンカストディアル型アプローチを維持しながら、流動性とステーキング報酬の両方を提供します。このシステムにより、32 ETH未満の小規模なステーカーもether.fiのエコシステムに参加することが可能になり、Ethereumのステーキングへのアクセシビリティが向上します。eETHの導入により、ether.fiは従来のLSTの利点を活かしつつ、EigenLayerとの統合や自動リステーキングなどの追加機能を提供している点はやはり、ether.fiの特筆すべき点の一つでしょう。

ノードサービスマーケットプレイス

ether.fiのノードサービスマーケットプレイスは、Ethereumのインフラストラクチャーサービス提供のための市場です。このプラットフォームでは、ステーカーとノード運営者が協力して、様々なノードサービスを提供することができます。具体的には、バリデーターに関連するNFTにメタデータを設定することで、そのノードが提供可能なサービスを登録します。これにより、高速トランザクション処理、データ可用性サービス、オラクル機能など、多様なサービスの提供が可能になります。

このシステムの特徴は、ノード運営者、ステーカー(B-NFT保有者)、ether.fiの3者の合意によってサービスが登録される点です。これにより、透明性と信頼性が確保されます。サービスの利用者は、支払い専用のスマートコントラクトを通じ、サービスの利用料を支払います。得られた収益はステーカー、ノード運営者、プロトコル間で分配されます。これにより、全参加者にインセンティブが提供され、Ethereumネットワーク全体に恩恵をもたらすことも期待されます。将来的には、EigenLayerとの統合により、さらに多様で複雑なサービスの提供が可能になると期待されています。

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